表現する人たちをどのようにサポートできるのか? ーキュレーション教育研究センターと〈みずほ〉が取り組む「東京藝大『I LOVE YOU』プロジェクト2024」

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表現する人たちをどのようにサポートできるのか?
キュレーション教育研究センターと〈みずほ〉が取り組む「東京藝大『I LOVE YOU』プロジェクト2024」

東京藝術大学キュレーション教育研究センター(以下、CCS)とみずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)は、2023年度より「アートとジェンダー」共同研究プロジェクトに取り組んでいます。

この一環で、2024年度より、本学卒業生・修了生を対象に、「ジェンダー」「こども」をテーマにした企画公募事業 『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト 2024』に参画しています。本事業は助成総額を300万円(1件あたり最大50万円)とし、2024年度は計8件の企画を採択しました。

本事業の特徴は、みずほ社員とCCSスタッフがともに、採択者の企画の実現をサポートするという点です。企画の実現に奔走する採択者のみなさんと、それを見守るみずほ社員とCCSスタッフはどのようなやりとりを行っていたのでしょうか。試行錯誤だった事業発足1年目。そのサポート内容についてレポートします。

採択から実施、実施報告会までの流れ

2024年度の主なサポート内容は、①個別相談会、②広報協力、③報告会・個別の振り返り会の実施の3つです。

まず、すべての採択者と実施したのが、採択後すぐの7月上旬にオンラインで開催した「相談会」です。各採択者との相談会には、CCSスタッフだけでなく、「この企画を応援したい!」と手を挙げたみずほ社員2~3名が参加し、採択者へ企画の感想を直接伝える場となりました。みずほ社員からは企画のどの部分を魅力的に感じたかといった率直なコメントが寄せられ、採択者にとっては自身の企画の強みや評価のポイントを知る機会となりました。

また、企画の実現にむけて、企画を届けるターゲット層の想定や実施会場の選定基準、広報計画など、採択者の実施イメージを伺いました。みずほ社員とCCSスタッフが「どのように、誰に届けたいのか」という視点で採択者の関心をヒアリングをしながら、ターゲットに即した広報手法や文言のアドバイスをしたり、〈みずほ〉やCCSのリソースを使ってどのようなサポートができるのかを考える場となりました。

採択者からは、助成金で適用できる費目の確認や、イベントのスケールに見合った予算案かどうかといった具体的な質問だけでなく、みずほ社員との交流を望む声や自身の活動を一過性に終わらせないためにどうすればよいのかといった長期的な戦略まで、一人一人異なる要望や相談が寄せられました。

第1回相談会のあと、8月上旬には採択者同士の顔合わせを兼ねて、助成金の実施報告書の書き方について、CCSスタッフがオンラインレクチャーを行いました。これらの顔合わせを経て、企画内容や経験値もさまざまである採択者の必要に応じて次回の相談会を設定したり、メールベースで企画の進捗を伺うなど、各採択者に沿った方法やタイミングで企画準備で躓いていることがないかなどを見守ることになりました。

〈みずほ〉ならではの広報協力

企画の実現に不可欠なのが、企画内容のブラッシュアップと並行して、チラシやSNS等を活用した企画広報です。〈みずほ〉は全国47都道府県に支店があることから、みずほ社員が企画の実施会場近くの支店に働きかけ、企画のチラシを配架させていただくという連携が実現しました。採択企画の中には、東京都以外にも愛媛県や北海道を開催地としているものもありましたが、全国にネットワークを持つ〈みずほ〉の強みを活かして、各地の支店でもチラシを配架することができました。

銀行の中に、展覧会やコンサートといったアート関連のチラシが置かれている。そのような光景が採択者には新鮮に映ったようです。地域に根差した活動を模索している採択者は、支店に直接チラシを持ち込むことでみずほ社員とのささやかな交流も図っていました。また、チラシの支店配架だけでなく、企画情報を社内SNSで発信するなど、〈みずほ〉ならではの広報も行われました。

喫茶店にあるティッシュの形を模したユニークなチラシを制作した企画も(写真)。採択者の趣向を凝らしたチラシを支店で配架しました。
写真提供/Projects HAKI-DASHI:吐き出し喫茶・ハキダシラヂオ

〈みずほ〉松山支店の広報協力をいただきながら実施した採択企画は、愛媛県と包括連携協定を締結する企業による「えひめサポーターズクラブ」の報告書でも取り上げられました。

3者で企画を振り返る

みずほ社員とCCSスタッフは、企画の制作過程で生じる相談や広報協力に応じながら、現場に赴いて企画の本番を見届けます。場合によっては、実施後に個別に振り返り会を開き採択者の所感を伺いました。振り返り会では、みずほ社員は客観的な立場で企画を体験した意義や素朴な疑問点を、CCSスタッフは「今後はこういうこともできるかもしれない」という企画の今後の可能性などを、採択者と共有し合いました。

そして、2025年2月23日には、全採択者による「東京藝大『I LOVE YOU』プロジェクト2024 採択企画報告会~CCS×みずほFGと振り返る企画の届け方、伝え方」を開催しました。採択者とみずほ社員、CCSスタッフが登壇し、企画の意義や実施までのプロセスを言語化することで、「ジェンダー」や「こども」という関心領域が重なる採択者同士が出会い、それぞれのノウハウが持ち寄られる時間となりました。みずほ社員とCCSスタッフが企画実施まで相談役としてサポートするだけでなく、振り返りまで参画することで、採択者がさまざまな視点から企画を捉え、活動を続けるにあたって何かしらのヒントを得られればと思っています。

企画報告会の様子(写真:横山渚)

採択者からの声

採択者の思いや進め方にあわせて、みずほ社員とCCSスタッフが実施から振り返りまでコミュニケーションを重ねる。その点が、本事業における「サポート」と言えるかもしれません。採択後に実施報告書の提出で完結するような助成事業とは異なるため、採択当初、採択者からは「どのようなサポートが得られるのか」「どれぐらいのやりとりが発生するのか」といった思いを抱きながらも応募を決めたというコメントがありました。

しかし、実施後には「資金面で助かったのはもちろんのこと、自分たちにはない、少し離れた角度からのコメントをいただけるのが刺激的でした。」「プログラム実施前から、広報物の制作、またプログラム当日にも見学に参加していただき、親身になってプログラム運営に協力していただいたことが印象的でした。」「プログラムの実施期間中に、プログラムについて直接的な意見を伝えてもらうことは少なく、最初はどのような批判があるのか不安に思いましたが、実際にはとても親切に有益なアドバイスをいただくことができました。また第三者に関わってもらうことで、自分たちの取り組みについても客観的に捉え直すことができました。過不足なく、適切な介入が得られたと感じます。」といった好意的な声をいただきました。

まだ見ぬ企画を実現するために日々奮闘していた採択者のみなさんと同じく、〈みずほ〉とCCSもまた、採択者のみなさんとやりとりをしながら、「どのようなサポートができるのか」を模索した1年でした。

事業1年目の経験や採択者からのフィードバックをもとに、2年目の2025年度はさらに充実した事業となるよう準備を進めています。「構想はあるけれどどのように実施できるのかわからない」「自分の活動をどのように社会と接続できるのだろうか」と悩む表現者のみなさんと一緒に知恵を絞りながら、きらりと光るアイデアを形にする一歩を少しでも後押しできれば幸いです。

企画報告会後に開催された採択者と〈みずほ〉とCCSの懇親会の様子(写真:横山渚)

文=韓 河羅

2025-04-28T12:16:29+09:002025/04/21|

東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2024(東京藝大×〈みずほ〉「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト) 採択企画レポート ローカルで、息の長いクィアコミュニティをつくるために

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東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2024
(東京藝大×〈みずほ〉「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト)

採択企画レポート
ローカルで、息の長いクィアコミュニティをつくるために

キュレーション教育研究センター(CCS)とみずほフィナンシャルグループは、本学卒業生・修了生対象の企画公募事業「I LOVE YOU」プロジェクト2024を共同で実施しております。

本レポートでは、2024年度に採択した企画のひとつ「土弄りのお色直し(つちいじりのおいろなおし):土着の伝統文化をクィアに着熟すための催し」について、企画内容から実施の様子について報告します。

企画概要
タイトル:土弄りのお色直し
内容:愛媛県松山市にてクィアをテーマにしたレクチャーと上映会、ワークショップを実施しました。戦前の文化をジェンダー視点から再考し、地方に根ざした新しいコミュニティや文化の可能性を模索することを目的としました。

各回の実施概要
2月11日 伝統とジェンダーの講演会
会場:教育会館
講演①高畠華宵作品に見る近代日本女性の諸相ーこれが彼女の生きる道⁉ー
登壇者:高畠麻子(高畠華宵大正ロマン館 館長)
講演②クィアに読む 噛み付くように読む 地元を読む
登壇者:近藤銀河(美術家)

2月23日 クィアの上映会と舞踏会
会場:教育会館
「染色体の恋人」上映会 ゲスト:矢野ほなみ
アンティーク着物でクィア舞踏会 ゲスト:宮﨑玲奈(劇作家・演出家)

美術学部先端芸術表現専攻を卒業した元岡奈央(もとおか なお)さんは、現在、元岡さんの地元の愛媛を拠点に活動をしています。地元で、ローカルなクィアコミュニティをつくる。それを大きな目的とし、クィアに関するレクチャーとワークショップシリーズ、「土弄りのお色直し:土着の伝統文化をクィアに着熟すための催し」が企画されました。

クィアとは、性的マイノリティや既存の性の枠組みにあてはまらないひとびとを指す言葉です。元岡さんの問題意識は、地方でのクィアコミュニティのあり方でした。クィアコミュニティの多くは都市に集中しており、郊外、ひいては地方で展開するコミュニティが少ないのが現状です。また、コミュニティの少なさと比例して、地方では旧来の価値観や固定観念が根強い傾向があります。

しかし地方だからといって、その土地にクィアが存在しないというわけではありません。本企画では、クィアとして存在しづらい地方だからこそ、みんなが安心して存在できるコミュニティをつくることが目指されました。

実施に向けて

申請段階では、クィアをテーマにした映像作品の上映会、レクチャー、ワークショップのイベント3本に加え、アーカイブの作成までもを含めた内容で提出された本企画。コミュニティを形成するために、手数を多く企画を打ちたいという思いや、元岡さんご自身の興味関心の幅広さと切実が伝わってくる企画書でした。しかし、息の長いコミュニティを目指す場合、息切れを起こさないことも重要です。そのため、CCSスタッフ、みずほメンターを交えた初回ミーティングでは、それぞれの企画の目的を確認し、今年度やること、次年度以降に継続的に行うことの整理を行いました。ミーティングを経て、今年度の目標は、クィアコミュニティを作るための仲間探しに設定。目標に沿って、企画の内容や広報手段を決めていきました。

最終的に企画内容をブラッシュアップし、2日間のイベントを実施することに決定。1日目はレクチャー、2日目は上映会とワークショップを行うことになりました。また、アーカイブも作成し、その発行は次年度を目指すなど、企画者本人が無理なく活動を続けていけるようなスケジュールをともに考えました。

2025年3月にプライドパレードが実施された愛媛県。クィアへの関心が高まりつつありますが、果たしてどのくらいの人が関心をもってこの企画に参加してくれるのか、手探りで広報活動を行いました。知人・友人への声掛けはもちろん、県内の大学やプライドパレードの関係者、また会場である教育会館を利用している劇団など、文化活動を行う団体にも積極的にアプローチをしました。みずほメンターにも、みずほ銀行松山支店でのチラシ配架、ロータリークラブへの周知など、広報協力をしていただきました。その積極的な広報活動が功を奏し、1日目の講演には12名ほどの参加者が集まりました。

2月11日開催の様子

2月11日 伝統とジェンダーの講演会

1日目は講演2本立てというプログラムでした。最初の講演は、「高畠華宵大正ロマン館」の館長である高畠さんを講師にお招きし、愛媛県出身である画家・高畠華宵についてレクチャーをしていただきました。生い立ち、画風の変遷、代表作と時代の流れ、またクィアという視点から華宵の作品や華宵自身を読み解く試みもありました。商業イラストによって女性=良妻賢母というイメージを生み出してきた華宵。しかし並行して、モダンガールや女学生など、規範からはみ出していく女性像も描き続けた側面も明らかになりました。

高畠さんによる講演の様子

続けて、アーティスト近藤銀河さんによる「クィア・リーディング」についての講演が行われました。クィア・リーディングとは、異性愛中心の世界を批判的に読み替えていく試みのことです。地方出身である近藤さんも、元岡さん同様、非都市でのクィアのあり方について課題を感じていたと話します。都市ではルーツと切り離されたクィアたちがディアスポラを形成していく一方、地方や地元ではルーツと切り離すことは簡単にはいきません。今までのクィアコミュニティでは、地域性を見過ごされているのではないかという課題が指摘されました。

近藤さん(オンラインで参加)の講演と、進行を務める元岡さん(左)

講演後は参加者が3つのテーブルにわかれ、ディスカッションを行いました。「かなり専門的なレクチャーに面食らった」という率直な声もあった一方で、自身も愛媛で暮らす中でクィアのあり方に疑問を持っているという話や、ご自身の取り組みをクィアな活動と捉えて語り直す方もいたりと、関心が高い方が多く参加していたことが伺えました。

2月23日 クィアの上映会と舞踏会

2日目は、クィアをテーマにした映像作品の上映と、着物を身にまとうワークショップを実施しました。執筆者は現地へ伺うことができなかったのですが、上映会には15人、ワークショップには5人が参加したそうです。11日の講演会から継続して参加した方がいるなど、クィアへの関心が高い方が集まったという報告を共有していただきました。

上映会の様子 写真:桑嶋燦(Kuwashima Aria)

クィア舞踏会の様子 写真:桑嶋燦(Kuwashima Aria)

2日間ともデリケートなトピックを扱うため、場づくりには十分な配慮が必要とされました。そのため、実施前はCCSスタッフやみずほメンターと何度か打ち合わせを行い、イベント当日はグランドルールを設定しはじまる前に参加者全員に共有すること、助けが必要な場合には他のスタッフとすぐに連携できる体制を整えることなどを確認しました。しかし、CCSとしても、安全な場づくりに関するノウハウが少なく、提案できる対処法が限られていたことが悔やまれました。安全な場を担保するためのルール作りや、事例の共有・リサーチは、CCSにとっても企画者にとっても、今後の課題だと考えます。

会場となった教育会館

愛媛県には、高畠華宵をはじめとした大正ロマンと称される文化が息づいている一方で、クィアや新しいジェンダー観の導入はこれからの可能性を秘めた段階です。地元の歴史と紐づけつつ、ローカルなクィアのあり方を模索できないか。それが各企画に通底する元岡さんのモチベーションでした。自身も大正文化が好きだと語る元岡さん。イベント時には着物を着用し、歴史ある建物を会場にすることで、地元の歴史とクィアコミュニティの形成が地続きであることを強調しようとしていたように感じました。

2日間のイベントを通して、地元愛媛県で価値観を共有できる仲間が見えてきた様子。まだまだ課題は多く残りますが、新たなコミュニティの芽がこれから逞しく育まれていくことを願います。

文:屋宜初音

2025-04-25T12:24:41+09:002025/04/21|

東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2024(東京藝大×〈みずほ〉「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト)採択企画レポート さまざまな環境の子どもたちに、伝統芸能を届ける工夫

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東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2024
(東京藝大×〈みずほ〉「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト)

採択企画レポート
さまざまな環境の子どもたちに、伝統芸能を届ける工夫

キュレーション教育研究センター(CCS)とみずほフィナンシャルグループは、本学卒業生・修了生対象の企画公募事業「I LOVE YOU」プロジェクト2024を共同で実施しております。
本レポートでは、2024年度に採択した企画のひとつ「児童養護施設での狂言ワークショップ」について、企画内容から実施の様子について報告します。

企画概要

タイトル:児童養護施設での狂言ワークショップ
内容:児童養護施設にて、狂言ワークショップを実施しました。全4回のシリーズプログラムで実施し、最終回には仮設の能舞台を会場内に設置し、狂言師による演目を鑑賞しました。
会場は都内の児童養護施設に協力いただきました。

各回の実施概要
12月14日 第1回 狂言についておはなしするよ
2月22日 第2回 衣装をきてみよう、踊りをやってみよう
3月1日 第3回 お芝居をやってみよう
3月15日 狂言「梟山伏」をみよう 質問コーナー

企画者である野村拳之介(のむら けんのすけ)さんは、音楽学部能楽専攻を卒業後、現在は狂言師として国内外のさまざまな舞台に立っています。彼が企画した「児童養護施設での狂言ワークショップ」は、狂言の演技や衣装の着用体験のほか、児童養護施設内に仮設の能舞台を設置し、最後にプロの狂言師による演目を鑑賞するという内容でした。

実施先を児童養護施設に選定した理由には、これまで実施した経験がないこと、また文化的体験の格差を解消したいとの野村さんの思いがありました。野村さんご自身は、普段から学校等へのアウトリーチを行っている実績がある一方、児童養護施設での開催は初めて。普段の実施場所とは異なる環境、また複雑な背景を持つ子どもたちとともに、どのようなワークショップが可能かが大きな課題でした。

実施に向けて

6月の採択後、CCSスタッフと野村さん、みずほメンターの3者でミーティングを開催。会場となる児童養護施設の想定はあるか、これまでのワークショップ経験などのヒアリングを行いました。そこで、会場となる児童養護施設への打診はCCSスタッフが引き受けること、また1日限りのイベントにするのではなく、何度か施設へ通い子どもたちと関係性を構築するプログラムへ組み直すことが決まりました。8月には実施先の児童養護施設が決定。施設の担当者は、打ち合わせで狂言ワークショップの開催に好意的な反応を示してくれました。調整の結果、12月から3月にかけて全4回の狂言ワークショップを実施することが決まりました。

実施に向けて、再度野村さんとCCSスタッフ、みずほメンターも含めたミーティングを実施。ワークショップの内容や準備について打ち合わせを行いました。児童養護施設で、どのように子どもたちに接するか、CCSスタッフやみずほメンターからは心配する声が上がりましたが、盲学校などでもワークショップ経験がある野村さんは「こういう子だからと決めつけずに、その場で出会った子たちと向き合うことを大切にしたい」と語りました。

CCS、みずほメンターとのミーティングの様子

12月14日 第1回目のワークショップ

このワークショップでは参加する子どもたちとの顔合わせを主な目的とし、自己紹介と簡単な狂言の説明を行いました。初回のワークショップには、計2名が参加しました。子どもの人数に対して視察や施設の職員含め、大人は7名以上という大所帯。大人の視線が気になる中でのワークショップとなり、参加した子どもたちは、会場の後ろにかたまる大人たちをチラチラ振り返りながらの参加になってしまいました。

自己紹介ののち、狂言についての説明を始めた野村さん。「狂言は600年前のお笑い」と伝えても、子どもたちはピンときていない様子です。そこで切り替え、狂言の小道具である扇を取り出しました。すると「なにそれ」と子どもたちが野村さんの近くに寄っていきます。扇を使い、狂言の演目ででてくる酒を注ぐしぐさを実演してみせます。「ドブドブドブ」と言いながら、開いた扇を徐々に上にあげ、お酒を注ぐ演技をする野村さん。聞きなれないオノマトペと、大きな振る舞いに、子どもたちは大笑い。あっという間に狂言の世界に引き込まれていました。続いて、閉じた扇を刀に見立て、鞘から刀を抜き、相手を斬る演技を子どもたちと一緒にやってみます。

最後は狂言に出てくる生き物クイズをしました。野村さんが狂言に出てくる生き物の演技をみせ、子どもたちが何の動物か当てます。こちらも大盛り上がり。とりわけ、キノコの精が移動する独特な歩き方で、子どもたちは魅了されていました。

2月22日 第2回目ワークショップ

この日は狂言の衣装を身に着けてもらう衣装体験と、舞いを体験しました。1回目の実施から2ヶ月ほど時間が経ってしまったため、子どもたちが継続して参加してくれるか不安でしたが、初回に参加してくれた2名に加え、新しく2名も参加し、計4名での実施となりました。

45分という短いワークショップの時間内に、衣装の着付けと、舞いの体験をするため、かなりタイトなスケジュールとなりました。衣装を身に着けると背筋が伸びる子どもたち。立ち方、歩き方、座り方など、基本的な振る舞いを一緒にやってみます。また、後半の約10分で、狂言に登場する唄と舞いも体験。盛りだくさんな内容となりました。最後は子どもたちから「キノコやって~!」とリクエストが。野村さんと子どもたちがキノコの動きをしながら、参加者対抗キノコレースが開幕されました。

3月1日 第3回ワークショップ

第3回目のワークショップでは、初回と第2回目に参加した2名、そして、第2回目に初参加した1名の計3名が参加しました。このワークショップでは、狂言に出てくる感情表現を一緒に実演してみます。笑い、泣き、怒りなど、狂言特有の擬音語や身体表現を、まずは野村さんが実演。大きな声や誇張表現を目の前で見て、その迫力にはじめは驚いた様子の子どもたちでしたが、一緒に声を出していくことで、次第にこわばりも解けていきました。

ワークショップ終了時には、「つぎはいつ来るの?」と子どもたちからの問いかけが。「2週間後、それが最終回だよ」と伝えると、「えー予定があって行けないや。その後は来ないの?」と会話が続きました。

3月15日 最終回

最終回は児童養護施設内に仮設の能舞台を設置し、「梟山伏」を鑑賞します。あいにく初回から第3回目まで来てくれていた2名は予定があり不参加でしたが、第2回目から継続して参加している1名の子どもが最終日も参加し、また演目を鑑賞しに幼児クラスの子どもたち3名も参加してくれました。これまでワークショップを行ってきた会場を半分に区切り、能舞台の松が描かれた鏡板がプリントされたスクリーンを背景に設置し、舞台を養生テープで区切って舞台を立ち上がらせます。演目前にこれまでのワークショップのおさらいと、今回の演目のあらすじの説明を行いました。初めてワークショップに参加する子どもたちにとっては、大きな声や身振り、低い声がかなり怖かった様子。それでも、驚き飛びのく、慌てふためくなど、コミカルな動きには反応して、大笑いしていました。

「梟山伏」参考画像(提供:萬狂言)

終演後は野村さんと参加してくれた子どもたちで、感想や質問をやり取り。第2回目から継続参加している子どもが、衣装のや演目のあらすじについて、細かく野村さんに質問をしている様子が印象的でした。

普段からさまざまな教育機関や団体で狂言ワークショップを行っている野村さん。そのため子どもたちの関心を引き付ける数々の工夫をこらしてワークショップを行っていました。今後は今回の経験をもとに、参加した子どもたち一人ひとりの個性に向き合うワークショップへの発展を期待しています。

現代美術とは違い、しっかりした型がある伝統文化の世界。長い時間をかけて磨かれた芸は、一瞬にして人々を惹き付ける強い力をもっています。そのパワーを活かし、実施場所や向き合う子どもたちに合わせて、ワークショップの内容や形式を変化させていく柔軟さが必要だと感じました。

文:屋宜初音

2025-04-25T12:24:45+09:002025/04/21|

【CCS×〈みずほ〉】東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2024

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【CCS×〈みずほ〉】
東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2024

本事業は、2019 年度より東京藝術大学が実施している企画公募事業『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト』のリニューアルに伴い、新たに設けられた枠組みです。

『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト2024』は、本学の「芸術未来研究場」が主催する共同研究企画公募事業として実施されます。「芸術未来研究場」は、多様性を認め合える社会の実現に向け、「アートは人が生きる力である」という確信及び「人の心」への眼差しを根幹として、新たな価値の創造や社会的課題の解決に係る実験と実践を重ねることを通じ、人類と地球のあるべき姿を探究することを目的としています。

キュレーション教育研究センターも、この「芸術未来研究場」が掲げる6つの基幹領域:「ケア・コミュニケーション」「アートDX」「クリエイティヴアーカイヴ」「キュレーション」「芸術教育・リベラルアーツ」「アートとビジネス」のうち、キュレーション領域を担う組織として期待が寄せられています。

本事業が本学卒業生・修了生にとって芸術が持つ無限の可能性を社会に向けて伝え、実践によって示すための一助になること、そして「芸術未来研究場」の目指す芸術と社会の未来を切り拓く新たなプラットフォームづくりに資することを祈っています。

Projects HAKI-DASHI:吐き出し喫茶・ハキダシラヂオ

実施企画「吐き出し喫茶 札幌店」

日時&開催場所:
2024年9月21日(土)13:00‐17:00 @苗穂基地
10月5日(土)13:00‐17:00@苗穂基地
10月26日(土)13:00‐17:00@高野山真言宗 観音寺
11月24日(日)13:00‐17:00@絵本とカフェ ゴルディロックス
12月14日(土)13:00‐17:00@絵本とカフェ ゴルディロックス

参加費:全ての日程 500円/日
詳細:https://hakidashi.piyopiyoarts.com/sapporo2024/

概要:
「吐き出し喫茶」プログラムは、1DAY喫茶店の姿を借りた、アートイベントであり社会実験です。2023年に東京で始まった「吐き出し喫茶」が、店主を変え、場所を変え、展開中。プログラムの軸は、「アーティストがいること」「ただ吐き出すだけの場であること」。一人一人の声が可視化されにくい、時に生きづらいこの社会で、パーソナルな悩みや夢、愚痴や希望を吐き出せる場として、おしゃべり以上、カウンセリング未満のニッチな事業を目指しています。

実施企画「ハキダシラヂオ: 生き延びるためのダイアローグプラクティス」
詳細:https://hakidashi.piyopiyoarts.com/radio/

概要:
ポッドキャスト配信「ハキダシラヂオ: 生き延びるためのダイアローグプラクティス」は、今不自由と向き合っている人、将来不自由を抱えるかもしれない人、目には見えない生きづらさを感じている人、それでも生きづらさを受け入れたくない人、そんな家族と生きる人、子どもを育てている人、家族のケアをする人、子どもたち、なんらかの加害者と被害者、孤独になってしまった人、全ての人にとって生きやすい社会をデザインします。

主催・問い合わせ:Projects HAKI-DASHI運営事務局 hakidashi@piyopiyoarts.com

みらいのおんがくかい ~ヴァイオリン、こと、ピアノでつむぐ~

日時:2025年3月2日(日)13:00 – 14:00
場所:クレモニア・スタジオ ホール(東京都杉並区荻窪5-22-7)
入場:子ども無料 / 大人3000円 / 大人(子ども同伴)1000円
出演:尾池亜美(ヴァイオリン)、福田恭子(箏)、鴇田恵利花(ピアノ)
詳細(予約ページ):https://mirainoconcert.peatix.com/

概要:
赤ちゃんや未就学児、そして保護者の皆様が、アートや音楽を安心して楽しめる、未来型のコンサートです。演奏者も、子どもたちの素直な反応や歌声に寛容であり、お客様にリラックスして楽しんでいただきたいと考えています。
ジェンダーや国籍など、多様なバックグラウンドの作曲家の作品を、子育て中の演奏家が、子育て中の皆さんにお届けします。

お問合せ:cwmusic668@gmail.com

子どもが演じるとき〜廣原暁監督特集上映会&トークイベント〜

日時:2025年3月31日(月)13:30 – 16:40
場所:川崎市アートセンター映像館/神奈川県川崎市麻生区万福寺6-7-1
入場:無料・要予約・自由席(98席)
詳細:https://aurochsandco.com/news/250331

概要:
子どもを主人公にした映画を多数作ってきた廣原暁監督の特集上映会とトークイベントを行います。トークには、廣原監督、出演した子どもたち、『ユキとニナ』『ライオンは今夜死ぬ』の諏訪敦彦監督を迎え、演じること、ジェンダーと表現についてなど語り合います。

▶チラシはこちら

主催・お問合せ: Aurochs and Company hirohara.info@gmail.com

This is (not) my lullaby

『This is (not) my lullaby』書影

制作期間:2024年7月〜2025年3月

概要:
「明治・大正期の日本におけるフェミニズム実践」と「同時期の日本人女性音楽家」に関するリサーチをもとに、課題として浮き彫りになったのが、音楽における女性・フェミニズム・ジェンダーについて語るための場がないこと、そして互いに安心して連帯できるようなコミュニティがないことの2点です。これらは音楽における女性のアーカイブが極端に少ないという事実とも繋がっています。
本企画ではそのため、芸術業界に生きる人たちがフェミニズムに関心を持ったときにアクセスできるプラットフォーム、また言説の場の形成として、jwcm (女性作曲家会議)と「音楽とフェミニズム」をテーマにしたマガジンの作成・出版を行います。

詳細:https://jwcm.site/this-is-not-my-lullaby

土弄りのお色直し:土着の伝統文化をクィアに着熟すための催し

日時:2025年2月11日(火祝)、2月23日(日)両日とも 13:00 – 16:30
場所:愛媛県教育会館(愛媛県松山市北持田町131-1)
入場無料・予約不要

概要:
2月11日&2月23日、松山・教育会館にて開催!
ジェンダーやクィアの視点から、愛媛の文化や歴史を再解釈する特別な企画。講演、アニメーション上映、そしてアンティーク着物を着た舞踏会となるパフォーマンスなど、盛りだくさんの内容でお届けします。
松山市では、明治時代の偉人や文化を観光資源や歴史教育の素材として活用していますが、 帝国主義、戦争賛美や良妻賢母の価値観が無批判に共有されることもあります。今回のイベントでは、昭和初期の建物である教育会館を舞台に、 戦前の文化をジェンダーの視点から再考し、伝統的な価値観を問い直します。また、クィアやジェンダーの概念が西洋由来であることを踏まえつつ、 愛媛の土着文化を読み解き、地方に根ざした新しいコミュニティや文化の可能性を模索することを目指しています。

▶イベントポスター&チラシはこちら

お問い合わせ:Instagram @queerehime

写真:桑嶋燦(Kuwashima Aria)

◆2月11日(火祝)13:00 – 16:30

講演会「高畠華宵作品に見る近代日本女性の諸相―これが彼女の生きる道!?ー」
登壇者:高畠麻子(高畠華宵大正ロマン館館長、愛媛大学・松山大学非常勤講師、「大正イマジュリィ学会」事務局・常任委員)
https://www.kashomuseum.org/home
https://x.com/kashomuseum

講演会「クィアに読む、噛み付くように読む、地元を読む」
登壇者:近藤銀河(アーティスト、美術史家、パンセクシュアル)
https://gingakondo.wordpress.com

◆2月23日(日)13:00 – 16:30

上映会「染色体の恋人」
監督・アニメーション:矢野ほなみ
https://honamiyano.com/
@beansboy63
Instagram:https://www.instagram.com/honamiyano/

ワークショップ「クィア舞踏会」
劇作家・演出家・ムニ主宰・青年団:宮崎玲奈
https://muniinum.com
https://x.com/muni_6_2

狂言による児童養護施設でのワークショップの実施

「梟山伏」参考画像(提供:萬狂言)

日程:
2024年12月14日 第1回「狂言についておはなしするよ」
2025年2月22日 第2回「衣装をきてみよう、踊りをやってみよう」
2025年3月1日 第3回「お芝居をやってみよう」
2025年3月15日 「狂言『梟山伏』をみよう」
場所:都内の児童養護施設

概要:
さまざまな子どもたちに文化的体験を届けるべく、児童養護施設にて狂言ワークショップを実施します。全4回のシリーズプログラムのうち、3回は事前ワークショップを行い、狂言を体験しながら交流を深めます。最終回には仮設の能舞台を会場内に設置し、狂言師による演目を鑑賞します。

まちへ飛び出せ!子ども自習室〜身近な自然・産業から学ぼう〜

実施企画「まちへ飛び出せ!子ども自習室〜身近な自然・産業から学ぼう〜」
日程:2024年10月12日(土)、10月26日(土)、11月16日(土)
会場:都立水元公園、カナマチぷらっと、株式会社日伸鉄工株式会社(工場)
定員:5組(1組の最大人数3名)
対象:小学3年生〜中学2年生
参加費:無料
詳細:https://www.instagram.com/p/C_pVP5BSvSO/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

概要:
今回のプログラムでは、子どもたちが生きる「まち」全体を一つのフィールドと捉え、まちの中を探索し、様々なものと出会いながら、制作を行います。ぜひ私たちと一緒に、ものづくりの世界を体験してみませんか?

実施企画「成果報告会・体験ワークショップ」
日時:2025年2月1日(土)〜2月9日(日) 10:00〜17:00
場所:えきこにわ葛飾区新小岩一丁目45番1号 JR新小岩南口ビル6階
ワークショップ開催日:2/1(土) 2/8(土)両日とも13:00〜14:30/15:00〜16:30
参加費:無料
詳細:https://www.instagram.com/p/DFM9uADJHdP/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

概要:
「まちへ飛び出せ!子ども自習室」の活動の様子をご紹介する展覧会を開催します。この展覧会では、昨年の子ども自習室の活動を、写真と文章で振り返ります。
関連企画として、昨年の取り組みを追体験できるような「らでんのワークショップ」も開催!葛飾区の自然を観察しながら、自分なりの絵を貝のカケラで描いていくワークショップです。

▶展覧会チラシはこちら

主催・問い合わせ:子ども自習室 summer.kids0506@gmail.com

写真:白奉珠圭氣

あそびとこころのみかた展

日時:2024年7月22日(月)~28日(日) 10:00〜18:00 ※最終日は17:00まで
会場:みらい館大明 東京都豊島区池袋3丁目30-8
入場:無料
ホームページ:http://pink120632.studio.site
最新情報:https://www.instagram.com/caresobies?igsh=MXM1ZXlrdTdsemFrNQ==

概要:
「誰でも必ずケアとであう。」
子育て、家事に、看病や介護など、私たちは誰かにケアされて生きています。日頃自分が気づかないところにも、人々の暮らしを支えるためのケアがあります。「ケア」は遠い誰かのお話ではなく、あなたのすぐ側に「ある」ものです。様々な「ケア」に出会える場、それが『あそびとこころのみかた展』です。遠くのだれかが一歩身近に感じられるように。そして社会が少しずつ優しくなれるように。

▶チラシはこちら

主催・問い合わせ:けあそびーず care.20240324@gmail.com
協力:東京藝術大学Diversity on the Arts Project(DOOR)
みらい館大明ブックカフェ

写真:白珠ケケ

CCSによる伴走支援レポート

表現する人たちをどのようにサポートできるのか?
ーキュレーション教育研究センターと〈みずほ〉が取り組む「東京藝大『I LOVE YOU』プロジェクト2024」
文=韓河羅(CCS特任助教)

〈みずほ〉が掲げるスローガン

“I’m with you”

I love you “藝術はヒトを愛する”へのアンサーのイメージで、

I’m with you は“社会(みずほ)は藝術に寄り添う”という想いを込めました。

そのほか、寄り添うこと・支えること・味方であること・そばにいること・応援していること・同意し共感すること・尊重していること・いつでも話を聞くよ、という思いも込めて、本助成企画に取り組んでいます。

2025-04-28T12:14:27+09:002025/04/21|

東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト「アートとジェンダー研究会」リサーチャープログラム

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東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト
「アートとジェンダー研究会」

リサーチャープログラム

東京藝術大学(以下、藝大)とみずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)は、2022年より「経済だけでなく、アートの力で文化や社会・人びとの生活も豊かで彩ある未来」をともに目指して、様々な連携を深めてきました。その連携をさらに強固にし、かつ持続したものにするため、2023年に包括連携協定を締結しました。

キュレーション教育研究センターでは、藝大×みずほFGの連携事業の一環として、「アートとジェンダー」をテーマにした様々なプロジェクトを展開しています。2024年度は、4名のリサーチャーがそれぞれ抱える「ジェンダー」への問題意識を自主企画として形にするためのサポートを行いました。研究報告書やトークイベント、さらには朗読会など、多様なアウトプット方法で実現に至りました。

伊志嶺絵里子

東京藝術大学、慶應義塾大学、静岡文化芸術大学他 非常勤講師

リサーチ/企画タイトル
オーケストラの楽員及び事務局職員のワーク・ライフ・バランスとジェンダー・ギャップに関する研究

リサーチ/企画概要
本研究の目的は、クラシック音楽業界におけるワーク・ライフ・バランスとジェンダー・ギャップの実態を把握することである。日本オーケストラ連盟の協力のもと、27のプロオーケストラを対象にアンケート及びインタビュー調査を実施した。

 

共同研究者:佐野直哉(東京藝術大学特任講師)、赤木舞(武蔵野音楽大学准教授)
研究協力者:箕口一美(東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)

写真:中川周
大石みちこ

東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻教授

リサーチ/企画タイトル
VOICE -Art &Gender- 対談「イラン映画に響く声」

リサーチ/企画概要
イランと日本の映画に長年たずさわってきたショーレ・ゴルパリアンにジェンダーについて聞く。イランと映画の歴史をベースに、映画を作る人々、俳優、映画の中の登場人物、観客の変遷についてひもとく。

写真:中川周
Cho Hyesu

インディペンデント・キュレーター、東京藝術大学大学院国際芸術研究科博士課程在籍

リサーチ/企画タイトル
The Ghost Project「現代百物語」+「百鬼夜行」

リサーチ/企画概要
The Ghost Projectは、日本の伝統的な怪談会「百物語」をモチーフに「現代百物語」を制作。脆弱性、多様性、ジェンダー、ケアなどのテーマを中心に、世界各地のクリエイター99人から現代社会を反映させる物語を集め、社会の中心から追い出された他者を描く。

ⓒthe ghost project, Yongha James Hwang
寺田健人

東京藝術大学美術学部先端芸術表現科助教

リサーチ/企画タイトル
「展覧会、演奏会をより安全な場所にしていくための実践」

リサーチ/企画概要
芸術大学におけるギャラリーストーカー問題をテーマに、トークイベントとアンケート調査を通じて迷惑行為の影響と大学が求められる対策を整理し、被害状況の把握と改善策をリサーチした。

写真:中川周
活動総評

難波祐子

2023年度に立ち上げた「アートとジェンダー研究会」では、「アートの現場における女性の社会進出」をテーマに全5回のレクチャーを実施すると同時に、藝大生・教職員有志とみずほFG社員によるリサーチチームを結成して、アートとジェンダーを取り巻くさまざまな課題について議論を深めてきました。その際の議論をきっかけに、多様な背景や課題を抱えているリサーチャーの皆さんの活動をより広い層に届けることを目的として、2024年度はリサーチャーの皆さんによる研究成果発表の場となるように4つの企画について、助成を行いました。イラン映画を通して知る女性像の歴史と変遷に関するトークイベント、演奏活動におけるジェンダー・ギャップに関する調査研究、国籍やジェンダーなど背景の異なる他者を受容するワークショップとオンラインプロジェクト、芸術系大学におけるギャラリーストーカー問題に関する調査研究、という多彩なテーマを扱う好企画が実施されました。それは東京藝術大学のみならず、現代社会が抱える課題をアートの力を通じてポジティブに可視化・昇華する、という本研究会が目指すべき姿をそのまま体現するようでもありました。今年度はみずほFGの皆さまには、リサーチャーたちの企画を暖かく見守ってくださるという役割に徹して頂きましたが、次年度は何らかの形で一緒に本研究会企画により深くコミットして頂けるようにして、「アートとジェンダー」に関する研究活動をより一層深めたいと考えています。

2025-03-21T18:06:48+09:002025/03/17|

東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト「アートとジェンダー研究会」 シンポジウム「アートとジェンダー:ケアの視点から」

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東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト
「アートとジェンダー研究会」

シンポジウム「アートとジェンダー:ケアの視点から」

東京藝術大学キュレーション教育研究センター(以下、CCS)とみずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)は、2023年度より「アートとジェンダー」をテーマに共同研究を実施してまいりました。(*1)

この一環として、2024年11月30日(土)にシンポジウム「アートとジェンダー:ケアの視点から」を開催しました。

第1部のトーク&ディスカッションでは伊藤亜紗氏(美学者)をお迎えし、海外でリサーチされているアートとケアにまつわるユニークな事例についてお話しいただきました。そして、「アートとジェンダー」研究会のコアメンバーとして活動してきた清水知子(本学大学院国際芸術創造研究科教授)を交えて、「ケアと芸術—音・身体・フィクション」をテーマに意見を交わしました。

また、第2部では、学内公募によって集った「アートとジェンダー」研究会のリサーチャー4名が登壇し、「ジェンダー」を取り巻く各自の問題意識から生まれた企画や調査研究の進捗について報告会を実施しました。

(*1)2023年度の東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト「アートとジェンダー研究会」レクチャーシリーズ&リサーチプログラムのレポートはこちらからご覧いただけます
https://ccs.geidai.ac.jp/event/mizuho-art-and-gender23/

写真:中川周

■開催概要
東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト「アートとジェンダー研究会」
シンポジウム「アートとジェンダー:ケアの視点から」
日時:2024年11月30日(土)14:00〜16:00 (13:30開場)
会場:東京藝術大学 上野キャンパス 音楽学部 5-109
料金:無料
定員:200名(先着順、事前予約制)
※学内、学外問わずどなたでもご参加いただけます
来場者数:121名
主催:東京藝術大学キュレーション教育研究センター

■当日スケジュール
□イントロダクション:14:00〜14:10

□第1部|14:10〜15:10
トーク&ディスカッション「ケアと芸術—音・身体・フィクション」
ゲスト:伊藤亜紗(美学者)
聞き手:清水知子(東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)
モデレーター:難波祐子(東京藝術大学キュレーション教育研究センター特任准教授)

□第2部|15:20~16:00
リサーチ企画報告会
登壇者:伊志嶺絵里子、大石みちこ、Cho Hyesu、寺田健人

第1部|登壇者プロフィール

ゲスト:伊藤亜紗(美学者)

東京科学大学未来社会創成研究院/リベラルアーツ研究教育院教授。MIT客員研究員(2019)。もともと生物学者を目指していたが、大学3年次より文転。2010年に東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学専門分野博士課程を単位取得のうえ退学。同年、博士号を取得(文学)。主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)、『どもる体』(医学書院)、『記憶する体』(春秋社)、『手の倫理』(講談社)。第13回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞、第42回サントリー学芸賞、第19回日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞受賞。

聞き手:清水知子(東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)

東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授。専門は文化理論、メディア文化論。英国バーミンガム大学大学院MA(社会学・カルチュラル・スタディーズ)修了、筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科修了。博士(文学)。著書に『文化と暴力―揺曳するユニオンジャック』(月曜社)、『ディズニーと動物―王国の魔法をとく』(筑摩選書)、共訳書にジュディス・バトラー『アセンブリー行為遂行性・複数性・政治』(青土社)、『非暴力の力』(青土社)、アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート『叛逆』(NHK出版)、デイヴィッド・ライアン『9・11以後の監視』(明石書店)他。

モデレーター:難波祐子(東京藝術大学キュレーション教育研究センター特任准教授)

東京都現代美術館学芸員、国際交流基金文化事業部企画役(美術担当)を経て、国内外で現代美術の展覧会企画に関わる。 企画した主な展覧会に「こどものにわ」(東京都現代美術館、2010年)、「呼吸する環礁(アトール)―モルディブ-日本現代美術展」(モルディブ国立美術館、マレ、2012年)、「大巻伸嗣 – 地平線のゆくえ」(弘前れんが倉庫美術館、青森、2023年)など。また坂本龍一の大規模インスタレーション作品を包括的に紹介する展覧会(2021年:M WOODS/北京、23年:M WOODS/成都、24年:東京都現代美術館)のキュレーターを務める。札幌国際芸術祭2014プロジェクト・マネージャー(学芸担当)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014キュレーター。著書に『現代美術キュレーターという仕事』、『現代美術キュレーター・ハンドブック』『現代美術キュレーター10のギモン』(すべて青弓社)など。

第2部|リサーチャープロフィール

伊志嶺絵里子(東京藝術大学、慶應義塾大学、静岡文化芸術大学他 非常勤講師)

リサーチ/企画タイトル
オーケストラの楽員及び事務局職員のワーク・ライフ・バランスとジェンダー・ギャップに関する研究
リサーチ/企画概要
本研究の目的は、クラシック音楽業界におけるワーク・ライフ・バランスとジェンダー・ギャップの実態を把握することである。日本オーケストラ連盟の協力のもと、27のプロオーケストラを対象にアンケート及びインタビュー調査を実施した。
共同研究者:佐野直哉(東京藝術大学特任講師)、赤木舞(武蔵野音楽大学准教授)
研究協力者:箕口一美(東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)

大石みちこ(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻教授)

リサーチ/企画タイトル
VOICE -Art &Gender- 対談「イラン映画に響く声」
リサーチ/企画概要
イランと日本の映画に長年たずさわってきたショーレ・ゴルパリアンにジェンダーについて聞く。イランと映画の歴史をベースに、映画を作る人々、俳優、映画の中の登場人物、観客の変遷についてひもとく。

2024年5月に開催したイベントのレポートはこちらからご覧いただけます:https://ccs.geidai.ac.jp/2024/08/29/voice_report/

Cho Hyesu(インディペンデント・キュレーター、東京藝術大学大学院国際芸術研究科博士課程在籍)

リサーチ/企画タイトル
The Ghost Project「現代百物語」+「百鬼夜行」

リサーチ/企画概要
The Ghost Projectは、日本の伝統的な怪談会「百物語」をモチーフに「現代百物語」を制作。脆弱性、多様性、ジェンダー、ケアなどのテーマを中心に、世界各地のクリエイター99人から現代社会を反映させる物語を集め、社会の中心から追い出された他者を描く。

寺田健人(東京藝術大学美術学部先端芸術表現科助教)

リサーチ/企画タイトル
「展覧会、演奏会をより安全な場所にしていくための実践」

リサーチ/企画概要
芸術大学におけるギャラリーストーカー問題をテーマに、トークイベントとアンケート調査を通じて迷惑行為の影響と大学が求められる対策を整理し、被害状況の把握と改善策をリサーチした。

2025-03-21T18:06:37+09:002025/03/17|

CCSミニトーク

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CCSミニトーク

2023年度に本格始動したキュレーション教育研究センター(CCS)。
センター長・今村有策、副センター長・熊倉純子、当センター特任准教授・難波祐子が登壇し、センターが描く未来と、その可能性を語るミニトークを実施しました。

フォトレポート

写真:中川周

開催概要

日時:2024年11月30日(土)16:15〜16:45 (16:00開場)
会場:東京藝術大学 上野キャンパス 音楽学部 5-109
料金:無料(先着順、予約不要)
※学内、学外問わずどなたでもご参加いただけます

主催:東京藝術大学キュレーション教育研究センター

関連リンク

【11/27(水)〜12/3(火)】芸術未来研究場展&関連イベントのご案内
https://ccs.geidai.ac.jp/2024/11/07/ccsgmk/

2025-03-21T18:06:21+09:002025/03/12|

芸術未来研究場展

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芸術未来研究場展

東京藝術大学キュレーション教育研究センター(以下、CCS)は、2024年11月27日(水)〜12月3日(火)に本学大学美術館(本館)で開催された「芸術未来研究場展」に出展しました。

本学は、アートの礎である「いまここにないものをイメージする力」をもとに、伝統の継承と新しい表現の創造のための教育研究機関であると同時に、様々なステークホルダーと共に社会を形づくる主体を目指し、「芸術未来研究場」を設置しました。

日比野克彦学長が打ち出した「芸術未来研究場」は、全学横断的に企業・官公庁・他の教育研究機関との連携を強化/推進する新たなプラットフォームとして5つの領域実践:[ケア・コミュニケーション][アートDX][クリエイティヴアーカイヴ][キュレーション][芸術教育・リベラルアーツ]を据えています。CCSはこのうちの[キュレーション]領域を担う組織として、特に期待が寄せられています。

本展覧会の「キュレーション教育研究センター」展示ブースでは、この一環として取り組んでいる「社会共創科目(公開授業)」や、みずほフィナンシャルグループとの共同事業をご紹介しました。学内外のハブとして機能しつつあるCCSの姿を、みなさまにわかりやすくお楽しみいただける機会となりました。会期中に実施した多彩な関連イベントの様子もぜひご覧ください。

フォトレポート|大学美術館展示会場

写真:中川周

フォトレポート|関連イベント

<2024年11月27日(水)開催「アートとジェンダー研究会」リサーチャー企画『朗読劇 ポスター』>

<2024年11月27日(水)開催|「I LOVE YOU」採択者による持ち込み企画・「ハキダシラヂオ」公開収録>

<2024年11月29日(金)開催|「I LOVE YOU」採択者による持ち込み企画・トリオコンサート>

写真:中川周

開催概要

芸術未来研究場展
会期:2024年11月27日(水)〜12月3日(火)
開館時間:10:00〜17:00(入館は会館の30分前まで)
会場:東京藝術大学大学美術館本館3F 展示室3・4ほか
観覧無料・申込不要
会期中休館なし
HP:https://museum.geidai.ac.jp/exhibit/2024/11/gmk2024.html

来場者数(展覧会全体):3300名
主催:東京藝術大学 芸術未来研究場、共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点(ケア&コミュニケーション領域)
協力:東京藝術大学大学美術館

*本展覧会は、JST 共創の場形成支援プログラム「共生社会をつくるアートコミュニケーション共創拠点」(JPMJPF2105)の支援を受けています。

キュレーション教育研究センターの関連イベント(開催日順)

開催中〜12月3日(火)|丸の内Drippin’ Tripper(ドリッピン・トリッパー)サテライト企画
11月27日(水)|「アートとジェンダー研究会」リサーチャー企画『朗読劇 ポスター』
11月27日(水)|「I LOVE YOU」採択者による持ち込み企画・「ハキダシラヂオ」公開収録
11月29日(金)|「I LOVE YOU」採択者による持ち込み企画・トリオコンサート
11月30日(土)|シンポジウム「アートとジェンダー:ケアの視点から」
11月30日(土)|CCSミニトーク
12月1日(日)|「I LOVE YOU」採択者による持ち込み企画・吐き出し喫茶

関連リンク

【11/30(土)開催】シンポジウム「アートとジェンダー:ケアの視点から」のご案内
https://ccs.geidai.ac.jp/2024/10/17/agc/

【11/27(水)〜12/3(火)】芸術未来研究場展&関連イベントのご案内
https://ccs.geidai.ac.jp/2024/11/07/ccsgmk/

2025-03-21T18:07:03+09:002025/03/12|

東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト 「アートとジェンダー研究会」 リサーチ・プログラム 第2回 「インディペンデント・キュレーターとして、ジェンダー課題と対峙する」

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東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト
「アートとジェンダー研究会」
リサーチ・プログラム

第2回
「インディペンデント・キュレーターとして、ジェンダー課題と対峙する」

日時:2023年11月17日(金)
場所:東京藝術大学 上野校地 国際交流棟4階 GA講義室
ゲスト:天田万里奈(インディペンデント・キュレーター / AWAREアンバサダー)

「アートとジェンダー研究会」では、ゲストによる連続レクチャーシリーズと並走して、有志のリサーチチームによる活動が行われました。チームの顔合わせ後初となる活動日には、インディペンデント・キュレーターとして独自の視点から活動を行ってきた天田万里奈氏をゲストとして招き、特別レクチャーを開催しました。

天田氏は日本と国外を行き来する生活が長く、マイノリティ性を感じる機会が多かったことで、社会的な活動やアクティビスト的な生き方に関心を持ったと言います。
海外生活を経て2019年に帰国した天田氏は、日本最大規模の国際写真祭にてメイン・プログラムの一部のキュレーションを担当しました。その際、招聘されている女性アーティストが自身が担当するアーティスト1人しかいなかったことから、日本においてまだまだ女性アーティストの表現の場が限られている事に気が付いたのだそうです。それから4年経った今も、日本の美術館での女性作家の個展開催は全体の15%に過ぎません。*1 また、過去10年間(2008年−2019年)におけるオークションの売上高を見ると、男性アーティストが98%を占めており、女性アーティストはわずか2%でした。*2 美術作品を「アーティスト個人のアイデンティティや体験に深く結びついている」と捉える天田氏は、「多様なアイデンティティや体験と結びついた作品が可視化されることで、お互いに対しての想像力や生きやすさにつながるのではないか」と考え、女性アーティストの活動をサポートする非営利活動法人〈Spectrum〉を立ち上げました。
〈Spectrum〉は、日本人女性アーティストの作品を海外美術館のコレクション支援と、より多様なアクターと作品が関わる場の創出という2つの方針を立ててプロジェクトを展開しています。天田氏は代表的なプロジェクトとして、写真家のマリー・リースによるポートレートシリーズとのコラボレーションを挙げました。マリー・リースは、ドミニク・アングルによるキャロライン・リベラの肖像画をコンステレーションとしながら、フランスの貧困地域にあるラグビーチームの少女たちのポートレートを制作しています。天田氏は、エシカルファッションブランドの「CLOUDY」と協働し、ポートレートの展示を若い世代が集まるパブリックスペースで開催する予定だといいます。天田氏は、「アート業界だけではなく、ファッションやスポーツの現場の人々と共に、アートを通して社会課題について能動的に考えアクションを起こす場を作りたい」と述べました。

〈AWARE〉公式ウェブサイトのトップページ
天田氏のレクチャーの様子

そのほかにも天田氏は他団体との連携も積極的に行っています。2023年からは、パリを拠点に女性アーティストへのサポートを行う団体〈AWARE(Archives of Women Artists Research & Exhibitions)〉のアンバサダーを担っています。〈AWARE〉は、過去の女性アーティストに関する研究を行い、そのアーカイブを構築しているほか、女性アーティストを対象にしたアワードを実施しています。ウェブ上でリサーチの成果を公開していることも大きな特徴の一つで、天田氏は今後、日本語版のページの作成を推進していくそうです。
これらの活動を紹介した上で、最後に天田氏は、〈Spectrum〉や〈AWARE〉での実践を通して、日本の芸術表現のフィールドをよりオープンにしていきたいとその展望を語りました。

(レポート:若山萌恵)

〈関連資料〉
*1表現の現場調査団「ジェンダーバランス白書2022」, 2022年8月24日
https://www.hyogen-genba.com/gender

*2 ArtNet “Female Artists Represent Just 2 Percent of the Market. Here’s Why—and How That Can Change”, 2023-9-19
https://news.artnet.com/womens-place-in-the-art-world/female-artists-represent-just-2-percent-market-heres-can-change-1654954

天田万里奈 公式ウェブサイト https://www.marinaamada.com/
〈AWARE〉公式ウェブサイト https://awarewomenartists.com/

2024-05-22T00:26:49+09:002024/05/13|

東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト 「アートとジェンダー研究会」 レクチャー・シリーズ 第5回 「子育てとフリーランス・キュレーターをめぐる問題について」

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東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト
「アートとジェンダー研究会」
レクチャー・シリーズ

第5回
「子育てとフリーランス・キュレーターをめぐる問題について」

日時:2023年12月15日(金)
場所:東京藝術大学 上野校地 国際交流棟4階 GA講義室
講師:難波祐子(東京藝術大学キュレーション教育研究センター・特任准教授)

本研究会では、「アートとジェンダー」というテーマについて多角的な視点から議論することを目指し、様々な分野の専門家によるレクチャーを全5回にわたって行いました。最終回の講師は、当センターの特任准教授である難波祐子が務めました。子育てをしながらフリーランスキュレーターとして活動をしてきた経験から見えてきた地平について語りました。

難波はまず、一般的なキュレーターのキャリアパスについて言及しました。大まかに言えば、日本で活動するキュレーターは、美術館に所属する美術館学芸員と、フリーランスで働くキュレーターに二分されます。日本では年間1万人が学芸員資格を取得していると言われているが、募集されるポジションは限られているため、全員が美術館に就職できるわけではありません。難波によれば、一般的には35歳までに学芸員として就職しなければ、その後のキャリアを築くことが難しくなる傾向にあると言います。
学芸員のジェンダーバランスに目を移すと、80年代以前は、圧倒的に男性が多かったのだそうです。90年代になると、留学する学生が増えたことと、プロジェクト型のアートが増加し、求められる学芸員像が変化したことなどから、徐々に女性の学芸員が増えていきました。ただし、同時に指定管理者制度の導入を背景に、契約職員という不安定な雇用形態が増加したため、これが女性に割り当てられた側面もあります。2000年代に入ると、女性館長の登場も顕著にみられるようになってきます。難波は、現在は女性の管理職も珍しくなくなってきており、託児室付きの美術館が登場したり、男性学芸員の育休取得なども推奨され、徐々に女性も働きやすい環境に変わってきているのではないかと考察しました。

難波によるレクチャーの様子

上記のような事情を背景としつつ、難波は自身のキャリアを振り返りました。ロンドンの大学で社会人類学を学んでいた難波は、帰国後に科目等履修制度と文部科学省の学芸員資格認定試験制度を利用し、学芸員資格を取得しました。その後は日本と海外を行き来しつつ、時にはフリーランスで、時には美術館等の組織に所属して仕事を行ってきました。子育てをしながらキュレーターとして活動するためには、子どもの成長段階に合わせてキャリアパスを調整する必要があり、苦労したと語りました。
また、子育てをしながら行ったキュレーションの経験を振り返りました。子どもを連れての初めての仕事は、バンコクのジム・トンプソン・アートセンターでのキュレーションだったと言います。子どもが2歳の時、シリン・ネシャットの展覧会で映像作品に釘付けになり、展覧会カタログをお気に入りの絵本とともにしまう姿を見て、自身の考えていた「子ども向け」のイメージが崩されるような衝撃を受けたのだそうです。難波は、この経験をきっかけに乳幼児・未就学児のための鑑賞教育についてリサーチを始めました。

子どもを連れてのキュレーションの経験を振り返る難波

難波がリサーチをもとに企画したのが、東京都現代美術館で開催された展覧会「こどものにわ」です。「こどものにわ」では、乳幼児の発達段階に配慮したり、親子で参加・鑑賞できる作品を展開したほか、子連れの親子が来場しやすい環境づくりや、保護者にリーチする広報に取り組んだそうです。こうして作った展覧会が開場すると、親子の他にも、車いすユーザーや、知的に障害のある方にとっても参加しやすい場になっていることが分かりました。
こうしたキュレーションの経験を通して、難波は、子どもや障害者、アーティストの世界は近しい関係にあるのではないかと考えるようになったといいます。現代アートには、既存の社会の規範からはみ出した人たちを受け入れ、取り込んでいく力があると再認識したと語りました。
難波の語りからは、子育てと仕事を両立するロールモデルがない中で、キュレーターとしての働き方を切り開いていく姿が垣間見えました。子育てと仕事に奔走しつつ、子どもへの眼差しを自身に折り返しながらキュレーションに落とし込む手つきを窺うことができました。

(レポート:若山萌恵)

〈関連資料〉
東京都現代美術館「こどものにわ」https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/114/

2024-05-22T00:27:10+09:002024/05/13|
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