東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト 「アートとジェンダー研究会」 リサーチ・プログラム 第2回 「インディペンデント・キュレーターとして、ジェンダー課題と対峙する」
東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト
「アートとジェンダー研究会」
リサーチ・プログラム
第2回
「インディペンデント・キュレーターとして、ジェンダー課題と対峙する」
日時:2023年11月17日(金)
場所:東京藝術大学 上野校地 国際交流棟4階 GA講義室
ゲスト:天田万里奈(インディペンデント・キュレーター / AWAREアンバサダー)
「アートとジェンダー研究会」では、ゲストによる連続レクチャーシリーズと並走して、有志のリサーチチームによる活動が行われました。チームの顔合わせ後初となる活動日には、インディペンデント・キュレーターとして独自の視点から活動を行ってきた天田万里奈氏をゲストとして招き、特別レクチャーを開催しました。
天田氏は日本と国外を行き来する生活が長く、マイノリティ性を感じる機会が多かったことで、社会的な活動やアクティビスト的な生き方に関心を持ったと言います。
海外生活を経て2019年に帰国した天田氏は、日本最大規模の国際写真祭にてメイン・プログラムの一部のキュレーションを担当しました。その際、招聘されている女性アーティストが自身が担当するアーティスト1人しかいなかったことから、日本においてまだまだ女性アーティストの表現の場が限られている事に気が付いたのだそうです。それから4年経った今も、日本の美術館での女性作家の個展開催は全体の15%に過ぎません。*1 また、過去10年間(2008年−2019年)におけるオークションの売上高を見ると、男性アーティストが98%を占めており、女性アーティストはわずか2%でした。*2 美術作品を「アーティスト個人のアイデンティティや体験に深く結びついている」と捉える天田氏は、「多様なアイデンティティや体験と結びついた作品が可視化されることで、お互いに対しての想像力や生きやすさにつながるのではないか」と考え、女性アーティストの活動をサポートする非営利活動法人〈Spectrum〉を立ち上げました。
〈Spectrum〉は、日本人女性アーティストの作品を海外美術館のコレクション支援と、より多様なアクターと作品が関わる場の創出という2つの方針を立ててプロジェクトを展開しています。天田氏は代表的なプロジェクトとして、写真家のマリー・リースによるポートレートシリーズとのコラボレーションを挙げました。マリー・リースは、ドミニク・アングルによるキャロライン・リベラの肖像画をコンステレーションとしながら、フランスの貧困地域にあるラグビーチームの少女たちのポートレートを制作しています。天田氏は、エシカルファッションブランドの「CLOUDY」と協働し、ポートレートの展示を若い世代が集まるパブリックスペースで開催する予定だといいます。天田氏は、「アート業界だけではなく、ファッションやスポーツの現場の人々と共に、アートを通して社会課題について能動的に考えアクションを起こす場を作りたい」と述べました。
そのほかにも天田氏は他団体との連携も積極的に行っています。2023年からは、パリを拠点に女性アーティストへのサポートを行う団体〈AWARE(Archives of Women Artists Research & Exhibitions)〉のアンバサダーを担っています。〈AWARE〉は、過去の女性アーティストに関する研究を行い、そのアーカイブを構築しているほか、女性アーティストを対象にしたアワードを実施しています。ウェブ上でリサーチの成果を公開していることも大きな特徴の一つで、天田氏は今後、日本語版のページの作成を推進していくそうです。
これらの活動を紹介した上で、最後に天田氏は、〈Spectrum〉や〈AWARE〉での実践を通して、日本の芸術表現のフィールドをよりオープンにしていきたいとその展望を語りました。
(レポート:若山萌恵)
〈関連資料〉
*1表現の現場調査団「ジェンダーバランス白書2022」, 2022年8月24日
https://www.hyogen-genba.com/gender
*2 ArtNet “Female Artists Represent Just 2 Percent of the Market. Here’s Why—and How That Can Change”, 2023-9-19
https://news.artnet.com/womens-place-in-the-art-world/female-artists-represent-just-2-percent-market-heres-can-change-1654954
天田万里奈 公式ウェブサイト https://www.marinaamada.com/
〈AWARE〉公式ウェブサイト https://awarewomenartists.com/