東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト
「アートとジェンダー研究会」
レクチャー・シリーズ
第2回
「『盛り』の誕生:女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識」
日時:2023年11月24日(金) 18:00~19:30
場所:東京藝術大学 上野校地 国際交流棟4階 GA講義室
講師:久保友香(メディア環境学者)
本研究会では、「アートとジェンダー」というテーマについて多角的な視点から議論することを目指し、様々な分野の専門家によるレクチャーを全5回にわたって行いました。第二回目のゲストは、メディア環境学者の久保友香氏です。
コミュニケーション技術をテーマに研究を行ってきた久保氏は、技術が必ずしも技術者の発想ではなく、市井の人々の発想や行動から生まれることに関心を持ってきたといいます。特に、日本の女の子たちの絵文字や自撮りといった文化が独自の価値観や指標を形作り、技術者がそれを掬い取って新たな技術を開発していくという流れが、研究の動機の一つにもなったそうです。
大学院で研究していた頃、久保氏は美人画における顔の画像処理についての研究を行っていました。描かれた顔に特徴点を打ち、実際の人の顔の特徴点とのズレを計測することで、美人画の時代ごとの幾何学的特徴を分析されたそうです。その後は雑誌に着目をし、現代のギャルたちの目指す顔に独自の価値基準があるのではないかと考察した久保氏は、ギャルたちの「盛り」の美意識に研究の関心を移していきました。
注目度の高い雑誌に取り上げられたギャルたちや、彼女らが自分の顔を写すために使用していたプリクラの開発者が持っているであろう、独特の美意識を探るべく、久保氏はフィールドワークに奔走しました。レクチャーの最後に、久保氏は、美意識は時代ごとのスタイルとそれを写す技術との往還の中で醸成されていると指摘し、感性と理論を結び付ける役割を果たしていきたいと語りました。
久保氏のレクチャーを受け、受講生からは「『盛り』の文化は女性が中心であるように見受けられたが、男女で差があるものと思うか」と質問があがりました。久保氏は、「『盛り』は、構造的に車やプラモデルのカスタマイズに近い。性差というより、素材として身体を選ぶか、他の物を選ぶのかという違いなのではないかと思う」と回答しました。また、写真を共有するツールとして、インスタグラムも話題に上がりました。作り上げた姿を写真によって瞬間的に切り取るだけではなく、生活の中の姿を継続的に撮り貯められるようになったことで、写したいイメージが変化したのではないか、という見方が示されました。瞬間的な美から長期的な充足という、生活のウェルビーイングの感覚の変化につながっているのではないかという意見も出ました。
(レポート:若山萌恵)
〈関連資料〉
久保友香(2019)『盛り」の誕生:女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』太田出版。