東京藝大 x みずほFG「アートとジェンダー」共同研究プロジェクト
「アートとジェンダー研究会」
レクチャー・シリーズ
第3回
「女性であることとつくることについて」
日時:2023年12月1日(金) 18:00~19:30
場所:東京藝術大学 上野校地 国際交流棟4階 GA講義室
講師:碓井ゆい(アーティスト)
本研究会では、「アートとジェンダー」というテーマについて多角的な視点から議論することを目指し、様々な分野の専門家によるレクチャーを全5回にわたって行いました。第三回目のレクチャーには、アーティストの碓井ゆい氏をゲストとして迎えました。
碓井氏は、手芸的な手法を表現に用い、社会的に弱い立場にあった女性たちの歴史や生殖医療など、女性というジェンダーに関連のある題材で作品を制作してきました。一般的に、手芸は女性的なイメージと結びつけられやすいといいます。碓井氏は大学在籍中から手芸的な手法を用いていましたが、当時は「自分が女性であることを引き受けなければいけないのか」と悩み、あえてジェンダーに関する関心を開示することを避けていたと明かしました。
碓井氏が積極的に手芸を表現の中に組み込むようになったきっかけは、視覚文化とジェンダーの研究者である山崎朋子による『近代日本の「手芸」とジェンダー』を読んだことだったと語りました。手芸が女性的で工芸より劣るという社会的な認識は、自分の感覚によるものではなく、社会的に構築されてきたものなのだと気づいたそうです。
その後は、日本各地のアートプロジェクトや芸術祭を通して、その土地の女性たちの歴史をリサーチしたり、現在の手芸や編み物をしている女性たちと交流しながら制作を行っています。直近では、墨田区で展開されているアートプロジェクトの企画の一環で、セツルメント運動の拠点として機能した歴史を持つ福祉施設「興望館」について、リサーチと展示を行うプロジェクトを実施しました。展示会場では、「興望館」の初期の資料写真を元にした刺繍を関係者とともに共同制作し、パッチワーク作品に仕立てたほか、架空の職員の視点で当時の社会を見つめる日記風の手記を制作し展示しました。
受講生との質疑応答では、美術業界において女性アーティストに向けられる視線や、手芸という手法に関する質問が多く聞かれました。碓井氏の回答からは、手芸とアートの境界やフェミニストに向けられる視線に苦慮しながらも、手芸を手がかりにジェンダー化された現象を掘り起こし丁寧に作品に落とし込んでゆく姿勢を窺うことができました。
(レポート:若山萌恵)
〈関連資料〉
山崎朋子(2005)『近代日本の「手芸」とジェンダー』世織書房。
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