トーク&ディスカッション「アーティストに今求められるプロデュース力とは」(ゲスト:もふくちゃん)

東京藝術大学キュレーション教育研究センター(以下、CCS)とみずほフィナンシャルグループは、2023年度より「アートとジェンダー」共同研究プロジェクトに取り組んでおります。

 この一環で、2024年度より、本学卒業生・修了生を対象に、「ジェンダー」「こども」をテーマにした企画公募事業 「東京藝大『I LOVE YOU』プロジェクト 2024」を共同で実施してまいりました。本事業を通じ、課題として浮き彫りになった「プロデュース力」をキーワードに、トーク&ディスカッション「アーティストに今求められるプロデュース力とは」を2025年2月23日(日)に開催しました。

イベント当日には急遽中止となったゲスト講演ですが、後日改めて予定していた講演を特別映像として収録しましたので、期間限定で公開いたします。

ゲスト講演「いま芸大生に求められるプロデュース力とは何か」
ゲスト:もふくちゃん(音楽プロデューサー、クリエイティブディレクター)
聞き手:熊倉純子(CCS副センター長、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)
(視聴可能期間:~2025年9月30日)
https://youtu.be/OO11_hqoIx0

トーク終了後、会場の藝大生やみずほ社員からはさまざまな質問が飛び交い、アイドルとジェンダーの関係、行動の源をめぐって、もふくちゃんならではのスタンスや情熱が垣間見えました。以下のテキストでは、質疑応答の内容の一部をご紹介いたします。

 

みずほ社員:

 今日のお話を大変楽しく拝聴しました。アイドルは性的に消費されてしまうイメージもあるのですが、もふくちゃんにとって、女性が女性のアイドルのプロデュースをしようと思ったカウンター的な経験はあったのでしょうか。

もふくちゃん:

 自分がプロデュースをはじめた当時、アイドル業界には女性プロデューサーが一人もいませんでした。だからか「なんでアイドルは若いうちしかできないんだろう?」「アイドルの衣装ってなんで毎回こうなんだろう?」「アイドルの歌詞ってなんでこんなに媚びているんだろう?」という疑問も多くて。それに対して、やれることしかない!と思ったんですね。

 たとえば、でんぱ組.incは、デビュー時から「年齢非公開」という新しい手に出ました。それまでは、「16歳の〇〇です!」といった挨拶がお決まりだったのですが、でんぱ組.incは「私たち2次元なんで年齢とかないです」「ずっと同じ歳です」みたいな(笑)。

 すると、「それっていいんだ?!ずるくない?」みたいな反応もあったりして。新聞が勝手に年齢を載せるんですよ。だから、でんぱ組.incのコンセプト的に(年齢は)載せられないと熱弁しに行ったりして、常に戦っていましたね。

 今は年齢非公開のアイドルがすごく増えたのですが、年齢を公表するしないのひとつをとっても男性社会のものだったなと。今は業界の雰囲気ががらっと変わったのですが、そのために女性として戦ってきたのはよかったなと思っています。

藝大生:

 業界自体が変わってきたなという感覚は、いつごろ、どういう風に感じたのでしょうか。

もふくちゃん:

 この数年で特に変わりましたね。この3、4年で何が起こっているかというと、女性のファンが自分の感覚では10倍以上に増えました。今までのアイドルの現場は、8割ぐらいが男性だったのが、今はまったく逆転しているんですよ。男性よりも女性のファンのほうが多いことによって、みんなのマインドが自然と変わっている。

「アイドルは時代の鏡」と言われますが、男性から見たときの女性ではなくて、「女性が見てかわいい女性がかわいいんだ」という傾向がここ数年で強くなりましたね。これは、TikTokをはじめとするSNSの影響も大きいと思います。

 私がプロデューサー業をはじめたときは、業界の価値観が本当に古かったんです。女性に対する感覚のアップデートがほかの業界に比べると3、4年遅いという体感があって。ただ、この5、6年で女性のアイドルプロデューサーがすごく増えました。その結果、「アイドルだけど偶像ではない。本当に生きている人間なんだ」という意識の改革みたいなことが起こってきたんです。

 そういう改革があったからか、彼氏がいることをカミングアウトするアイドルが現れたりして。「私は彼氏がいるし、好きなこともする」というように、アイドル側からも既存のアイドル像を壊すようになってきたんですね。業界も「アイドルだけどそういうことをするんだ」という歩み寄りの姿勢があって、ファンの男女比の変化に繋がったのだと思います。業界はまだまだ変わっていく波の中にいると感じています。

藝大生:

 すると、最近の変化が起こるまで、もふくちゃんがアイドル業界に足を踏み入れてからの10年以上は戦い続けていたということですか?

もふくちゃん:

 そうです(笑)。ありとあらゆる人たちとの戦い。今はそんなことないんですけど、当初はでんぱ組.incに恋愛の歌を歌わせたくないというこだわりがなぜか強くあったんです。恋愛よりも、戦うぜ!やってやるぜ!みたいな意気込みのほうがいいから、作詞家の人にはそういう歌詞にしてくださいとお願いしていました。でも、作詞家は良かれと思って、歌の最後に「あなたがすき」と書いちゃうんですよ。そこでも戦いですよね。「いや、いらないよ」と(笑)。

 他にも、アイドルが足をださないといけないのはなんでなんだろうと思って、ズボン履いちゃおうとか、そういった一つひとつに取り組んでいました。それまで業界がやっていなかったことをする度に「なぜなんだ」と言われては、いつも理由を説明をしていました。そういう意味で、今は全然戦わなくてよくなりましたね。

みずほ社員:

 それだけ戦い続けてきたモチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか。

もふくちゃん:

 自分でもなんでこんなに熱いのかわからないのですが、あらゆることにすごくむかついているんですよ。「世の中ーーー!!」みたいな(笑)。「なんでこうしないんだ!こうすればもっとよくなるのに!」という思い込みが自分の中に勝手にあって。

 東京藝大ではいろんなことを勉強しましたが、一番好きだったのは歴史の勉強でした。といっても大げさなことではなくて、昔の人たちはどうしてこれを作ったんだろうと考えると、長い歴史の上にこれがあるということがあるじゃないですか。その段積みで間違った段積みを発見するとすごい腹立っちゃって。そっちに石を積むな!と(笑)。その怒りが常にどのジャンルに対してもある。ファッションでも映画でもMVでも。そのやり方は時代をさかのぼってるぞ、もっとこっちこいよ!と。(東京藝大に入った)18歳からそうだったのかなというのは、今日話しながら思い出していましたね。

熊倉:

 東京藝大の入試のときから、「この世の中を変えなきゃだめだ!」と熱弁していたことをよく覚えています。もふくちゃんは音楽学部音楽環境創造科の1期生だったので、どんな科なのかがわからないわけじゃないですか。ところが、教員だってわからなかったんです。こっちもはじめて立ち上げるので(笑)。

 そんな中で東京藝大の扉を叩いてきてくれたわけですが、当時から、世の中のことに批評的に文句を言う感じではなくて、とにかくすごく明るいんですよ。ポジティブなエネルギーで世の中を変えたいんだなということが伝わってきてとても印象深かったですね。

(構成編集:韓河羅)